Long Trail Hiking

ロングトレイルとは

ロングトレイル

 ロング・ディスタンス・トレイル(以下、ロングトレイル)は、その名の通り「長い距離の道」のことです。Trailの直訳は、あぜ道・獣道という意味ですが、現代においては「歩く道」と解釈できるほど、広い意味で使われるようになっています。ロングトレイルとは「長い距離の歩く道」ということになります。

 ロングトレイルは、ハイカーにとっては憧れのひとつです。”HIKE”の語源を考えれば、ハイキングは少しでも長くありたいものです。ハイカーはトレイルがあろうと無かろうと、長く歩く旅=ロング・ディスタンス・ハイキング(以下、ロングハイキング)ができます。いつでも、どこでも道を歩き続けていけばいいのです。とはいえ、いきなり情報が何も無いなかで歩き出すのは、アウトドアに親しんでいる人にとっても簡単なことではありません。行き先を自分で決めながらの行き当たりばったりの旅も素晴らしいものです。しかし宿泊場所、食料補給、水場の有無、アクセス方法などハイカーが必要とする情報は多岐に渡ります。ロングトレイルの理想的なカタチはこうした情報をふくめ、トレイルを維持管理する組織が存在するケースです。これは現在のハイカーのためだけでなく、次世代のハイカーがロングトレイルを旅する素晴らしさを享受するためにも大事なことなのです。長い距離を楽しく旅するきっかけとして、自然景観が美しいトレイル、歴史や文化を楽しめるトレイルなど世界各地に様々なロングトレイルが設定されています。ここでは、国内外のロングトレイルをいくつか紹介していきます。


1. 日本のナショナルシーニックトレイル、長距離自然歩道

 アメリカで有名なロングトレイルのほとんどは、National Scenic Trail(以下、NSCまたは ナショナルシーニックトレイル)といわれる国が認定したトレイルです。認定されるためには、満たさなければならない要件があります。その一つに管理運営を担う民間の組織の存在があげられます。アメリカのトレイルでは情報、地図が入手しやすく、整備がされているのはこの管理運営する民間組織があるからなのです。 日本では地方自治体や民間が独自の取り組みとしてトレイルを管理しているケースが多いのですが、アメリカのNSCと似た取り組みもあります。それが「長距離自然歩道」です。全国に約28,000kmの長距離自然歩道が設定されていますが、他のロングトレイルのような「長い一本道」という仕様でない自然歩道も多く、また自治体主体の管理の中に民間組織が入っていないため利用に課題をかかえているケースも見られます。しかし近年では一部路線の管理運営を担う民間組織もうまれ、次世代に向けて新たな取り組みもはじまっています。


    ❶東海自然歩道

    1,733km / 東海自然歩道連絡協会ほか
    http://www.tokai-walk.jp

    1974年に開通した日本初の長距離自然歩道。総延長は1733km、東京都明治の森高尾国定公園から大阪府明治の森箕面国定公園を結んでいる。アパラチアン・トレイルを手本とした当時の理念が色濃く反映されている自然歩道。都市化の波から里山の豊かな自然、多様な歴史文化財を守るグリーンベルトとしての期待が込められています。


    ❷みちのく潮風トレイル(東北太平洋沿岸自然歩道)

    1,025km / みちのくトレイルクラブ
    https://m-tc.org

    青森の八戸から岩手、宮城そして福島の相馬まで、海沿いの地域に跨る、1,000kmを超える長距離自然歩道。東日本大震災を契機に、環境省による復興事業として始まり、2019年に全線開通しました。長距離自然歩道において民間が管理運営を担っているはじめてのケース。海のアルプスと言われるほどの断崖とアップダウンや海と共に生きてきた人の営みを感じるトレイルです。


    ❸九州自然歩道

    3,000km / 九州自然歩道フォーラムほか
    https://kntf.jp

    開通から40年以上経過する長距離自然歩道。各県が主体となり維持されてきていますが、九州自然歩道フォーラムを中心に利用推進が近年進められています。九州七県をめぐる総延長3,000kmでのループトレイルとして、九州の多様な自然を見せてくれます。本州と異なる気候と動植物相により、日本でも一味違うハイキングが楽しめます。


    ❹関東ふれあいの道(首都圏自然歩道)

    1,799km / 東京都環境局 自然環境部緑環境課ほか
    https://www.env.go.jp/nature/nationalparks/pick-up/long-trail/kanto/

    関三浦半島から時計回りに丹沢、高尾山、奥多摩、秩父、妙義山、太平山、筑波山、霞ヶ浦、九十九里浜、房総半島と東一都六県をぐるりと一周するループトレイル。里山と集落の緊密な関係を知る一方、自然と人との明確な境界を感じることもあります。大都市圏からの近さを感じさせない懐の深さが魅力。

    2. 自治体や民間が盛り上げる、日本のローカルトレイル

    日本のローカルトレイル

    ❶摩周屈斜路トレイル

    44km / てしかがトレイルクラブ
    https://mashukussharotrail.jp

    北海道 阿寒摩周国立の中にある、摩周湖と屈斜路湖を繋いで巡る全長44kmのトレイルです。摩周湖と屈斜路湖という2つのカルデラ湖を渡り歩き、火山がつくり出した独特の自然景観、温泉街や野湯、また古くからあるアイヌコタンを通りながら歩きます。自治体と協働している民間団体が維持活動をおこなっている代表的なローカルトレイル。


    ❷信越トレイル

    110km / 信越トレイルクラブ
    https://www.s-trail.net

    長野県と新潟県の県境の関田山脈を中心に、斑尾山から苗場山まで、湿原・里山・ブナの森・豪雪地帯で育まれた文化歴史の繋がるトレイル。バックパッカーで作家の加藤則芳氏との関わりも深く、日本で最初に民間によるトレイルの維持管理システムが作られました。自然に深く入り込む、日本を代表するトレイル。


    ❸あまとみトレイル

    85km / あまとみトレイルクラブ
    https://myoko-togakushi.jp/trail/

    長野県と新潟県にまたがる妙高戸隠連山国立公園。民間からの声に応え、自治体、環境省と民間の協働により設定されました。善光寺や戸隠神社、妙高や野尻湖といった、歴史文化、自然豊かなエリアを通り、斑尾山へと繋がります。斑尾山では信越トレイルと繋がっており、両トレイルを合わせれば約200キロとなります。


    ❹高島トレイル

    85km / 高島トレイルクラブ
    https://takashima-trail.jp

    日本海側と太平洋側を分ける中央分水嶺に沿ってつくられたトレイル。滋賀、福井、京都の山深い地域に残された豊かな自然を味わえるトレイル。全線を通じて標高は低いものの、テントサイトや食糧補給できる山小屋などはなく、水場も限られるため、自分自身でプランニングをしっかり立てられる経験と体力が必要なトレイル。


    ❺京都一周トレイル

    72km / 京都市観光協会
    https://ja.kyoto.travel/tourism/article/trail/

    伏見稲荷から大文字山、比叡山、鞍馬街道、高雄から苔寺に到る、まさに京都を一周するトレイル。日本を代表する観光都市の普段見ない姿を巡ることで、京都をもっと深く知ることができます。道標はしっかりたっていて、街とも近くアプローチが容易です。


    ❻山陰海岸ジオパークトレイル

    41km / 山陰海岸ジオパークトレイル推進協議会
    https://sanin-geo.jp/play/geotrail/

    山陰海岸に沿い、国立公園とジオパークの美しくダイナミックな景観が楽しいトレイル。小さな集落や漁港もあれば、小高い山もでてくる。景勝地としての断崖、そして砂丘と同じ海岸線とは思えない多彩な表情を見せてくれます。民間組織が各種イベントを開催しながら利用推進をしています。

    3. 歴史が育んできた歩く文化、日本のヒストリカルトレイル

    日本のヒストリカルトレイル

    ❶塩の道

    120km / 小谷村観光連盟
    https://www.vill.otari.nagano.jp/kanko/trekking/shionomichi/

    新潟県糸魚川市と長野県松本市とを結び、塩などの物資を運んだ120kmの街道。北アルプスを望みつつ、歩荷と牛馬行き交った往時に想いを馳せてみませんか。神社仏閣、田園風景、峠越え、湿原、湖、城下町と多彩な自然と文化とが体感できます。


    ❷熊野古道

    190km + α / 田辺市熊野ツーリズムビューローほか
    https://www.tb-kumano.jp/kumano-kodo/

    自然崇拝の地であった熊野は、当時の上皇も歩いて参詣するほどの聖地でした。そこに1,000年以上残された古道は、今も歩く旅人を迎え入れています。地元民間団体により維持のシステムが作られていて、地域住民や自治体と一緒に守られています。数多くの神話も残る道です。カミーノ・デ・サンチャゴとは姉妹トレイルとして協働しています。


    ❸四国遍路

    1,400km / 四国八十八箇所霊場会、へんろみち保存協力会
    https://88shikokuhenro.jp

    日本の歩く文化の代表といえるのが、四国お遍路。約1,400kmを、同行二人の気持ちで歩きます。「通し打ち・区切り打ち」や「善根宿」などとアメリカのロングトレイルカルチャーにも通ずるような文化が根付いています。信仰の道ではありますが、今では長く歩く挑戦であったり、歩き旅としても多くの方に親しまれています。